時間帯別CO2排出係数算定の目的と狙い

これまで、CO2排出係数としては、国の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)」に基づき、小売電気事業者各社から公表されているものが一般的でした。しかし、SHK制度で公表されるCO2排出係数は1年間の平均値に過ぎず、季節や時間帯によるCO2排出量の変化を把握することができません。
そこで当社は、現行の制度では把握できない、 CO2排出係数の時間的な変化の見える化を目的として、環境省の令和4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(リアルタイムCO2排出係数に基づく再生可能エネルギー発電等の最適制御技術の開発・実証事業)の採択を受けて、技術開発を進めて参りました。当サイトはその成果の一部を公表したものです。

時間帯別CO2排出係数グラフはこちらから

例えば、天気の良い昼間の時間帯には、太陽光発電の発電量が増加するため、火力発電の発電量が抑えられ、この時間帯のCO2排出係数は夜間よりも低くなっていると考えられます。夜間は太陽光発電の発電量が見込めないため、電力供給において火力発電に頼る割合が高くなります。
これまでも、時間帯別に変化する電気の経済的な価値(スポット市場価格など)を指標として、VPP(バーチャルパワープラント)やDR(デマンドレスポンス)といった取組の中で発電や需要の時間帯別のシフト、最適化が行われてきました。しかし、それらが環境面でどのような貢献があるかを分かりやすい形で示すことが困難でした。時間帯別のCO2排出係数があれば、同じ量の電力を発電もしくは消費する時間帯を変えるだけでもCO2削減に繋がりうることを簡単に示すことができます
例えば、再エネ電源の一種であるバイオマス発電を行う場合、時間帯別CO2排出係数の推移を参考にして、夜間に発電を集中すれば、昼間に発電を行う場合よりもCO2削減効果が高くなります。他にも、工場の生産ラインなどで、節電を行う際も、時間帯別CO2排出係数の高い時間帯を狙って実施する方が、CO2削減効果が高いといえます(※)。

国際的にも、事業者の温室効果ガス排出量算定基準として広く用いられているGHGプロトコルのScope2の算定手法において、実態をより精緻に反映する手法を重視する議論が進行しており、今後の様々な動向に柔軟に対応できるよう備えていく意味でも、こうした時間帯別のCO2排出係数の理解・活用が重要となります。

※より正確にCO2削減効果を求める場合、各時間帯での追加的な発電・節電により出力が増減する電源(マージナル電源)を特定して、そのCO2排出係数を用いて算定する必要があります。当社では今後は時間帯別のマージナル電源のCO2排出係数の算定・公表も予定しております。

参考:年間平均CO2排出係数の算定方法

SHK制度で公表される年間平均のCO2排出係数は、以下のような算定式で求められます。

\( E_{YR}^i = \frac{\sum_k C_k^i \times CF_k^i}{P_i} \)
\( E_{YR}^i \):
小売電気事業者 \( i \) のCO2排出係数
\( C_k^i \):
調達電源 \( k \) の燃料消費量
\( CF_k^i \):
調達電源 \( k \) の燃料消費量当たりのCO2排出原単位
\( P_i \):
小売電気事業者 \( i \) の総調達電力量

上式は1年間の平均値として求められます。右辺分子部分は、各種電源ごとに発電に伴って消費した燃料に対し、その燃料のCO2排出原単位をかけ、総和を求めることで、CO2総排出量を算定しています。
※電源が再生可能エネルギーなどの燃料を消費しない電源の場合は、CO2排出原単位が0となるため(燃料消費量も0となります)、CO2は排出されない計算となります。

時間帯別CO2排出係数の算定方法

時間帯別CO2排出係数の算定は、一般送配電事業者の供給区域ごとに行います。係数は以下のような算定式で求められます。

\( E_{HR}^i = \frac{\sum_k p_k^i \times CF_k^i}{P_i} \)
\( E_{HR}^i \):
エリア \( i \) の時間帯別CO2排出係数
\( p_k^i \):
電源 \( k \) の発電電力量
\( CF_k^i \):
電源 \( k \) の発電電力量当たりのCO2排出原単位
\( P_i \):
エリア \( i \) の総発電電力量

上式は30分ごと時間コマの平均値として求められます。右辺分子部分は、各燃料種別の発電電力量に対し、その発電に係るCO2排出原単位をかけ、総和を求めることで、CO2排出量を算定しています。
※年間平均の場合と同様に、電源が再生可能エネルギーなどの燃料を消費しない電源の場合は、発電電力量当たりのCO2排出原単位が0となるため、CO2は排出されない計算となります。

時間帯別CO2排出係数の具体的な算定手順

一般送配電事業者各社は、「燃料種別需給実績」というデータを公表しています。これは、対象一般送配電事業者の所管エリア内において、【火力(石炭・LNG・石油・その他)】【原子力】【水力】【地熱】【バイオマス】【太陽光】【風力】【揚水】【蓄電池】【連系線】【その他】の各カテゴリで、30分ごとにそれぞれの発電実績を記録したデータです。
このうちCO2が排出されるのは、石炭・LNG・石油・その他からなる【火力】発電です。 にはそれぞれの火力発電の時間帯ごとの発電量が入り、 にはそれぞれの燃料種に応じた排出係数が入ります。各燃料種の排出係数については、下表の値を用いています。

排出係数の設定値
燃料種
排出係数 [t-CO2/MWh]
石炭
0.864
LNG
0.376
石油
0.695
その他
※その他については、平均値(石炭・LNG・石油の各CO2排出量÷火力総発電量)でエリアごとに設定
各燃料種の排出係数は、電力中央研究所 「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価 総合報告:Y06」 の値で設定しています。

関連学会発表
松田 健士、堀尾 作人、合津 美智子「電力リアルタイムCO2排出係数の試算と応用例」、第42回エネルギー・資源学会 研究発表会(2023)
松田 健士、堀尾 作人、合津 美智子「再生可能エネルギーの出力変動を考慮した時間帯別CO2排出係数の算出」、第19回日本LCA学会研究発表会(2024)

その他注意事項

本サイトは環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(リアルタイムCO2排出係数に基づく再生可能エネルギー発電等の最適制御技術の開発)」の成果を元にしたものです。
ただし、時間帯別CO2排出係数はあくまで当社が独自に計算した指標であり、現時点ではSHK制度等での報告で利用可能な数値ではありません。当ウェブサイトに掲載されている内容について、出来るだけ正確であるように努めております。しかしながら、当社は、当ウェブサイトの情報が完全であり、または正確であるとの表示または保証は一切行っておりません。また、当社は皆様がこれらの情報を使用されたこと、もしくは、ご使用になれなかったこと、また、当ウェブサイトをご利用になったことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。